その抗争の火ぶたはある日突然斬って落とされる。
オフィスのすぐ近くに「万能薬」というこじゃれた名前の焼肉店がある。 ここはランチで焼肉を食べさせてくれる上、ライスおかわり自由（※1）という大食いさんにはなかなか良い店かと。
（※1）ライスおかわり自由……どう見てもオ○マっぽい店主がしつこいぐらいに「ライスおかわりどう？」と勧めてくる。 ライスはもういい、肉よこせ。
難点を挙げるとすれば、その焼肉ランチが1,260円することか……かなり強気な価格設定ではある。 普段のランチの1.5～2食分。気軽に入れる店ではない。他に安いメニューもあるのだが、 どうしてもここに来れば焼肉ランチを注文してしまう。それほど旨い。
値段が値段なため、この店で食べるときは自分の財布の口を開く気など、さらさらない。 ……しかし行くメンバー全員が同じことを考えているからたちが悪い。
普段は３人で昼食を食べに出かけることが多い。ishii、kenken（※2）、そして私。
（※2）kenken……社長ishiiの幼なじみで間借りさせて貰っているコンサルティング会社の副社長。 他にも3社の役員も兼ねているすごい人。
このうちの誰か（←たいていはkenken）が「昼に焼き肉食べに行こうかぁ～」とか言い出したら要注意。抗争の始まりである。
第１段階。
みんな自分の昼食代を払う気など、さらさらないので遠慮しない。 デフォルトで一番高いメニューである焼肉ランチをためらいもなく注文する。
第２段階。
焼き肉を食べながら各人アピールして互いに牽制し合う。 「いやぁ～、やっぱりタダ飯はうまいなぁ～」とか「誰が払うんだろうね」などなど。 野生の猿が自分の縄張りを主張するために威嚇するのと同じ。
第３段階。
腹も満たされ、たわいもない話しで盛り上がる。しかし心の中ではどのように勝利するか必死で思考を巡らせている。 あまりグダグダしてもしょうがない（←ちゃんと仕事はしています）ので、誰からともなく「そろそろ始めますか……」などと言い出す。
第４段階。
「俺は"パー"出しちゃおうかなぁ～、おまえは？」
「……じゃ、"グー"だ」
「あ、そうか払ってくれるからねー」
「いやいやｗ」
このような心理戦が繰り広げられる。各国ともミサイルの発射準備は完了。あとは宣戦布告（←もうしている？）を待つだけである。 この戦いに社長も副社長も社員も関係ない。ただ己という"個"があるのみ。
そして……一瞬の静寂の後、
「最初は"グー"！じゃんっけんっぽい！」
「やったぁ～っ！！」
最初に雄叫びを上げ、喜びを全身で表現しているのはkenken。彼はこういうときに無類の勝負強さを発揮する。 私とishiiは約33%の確率が50%まで跳ね上がったことに畳の上にもんどり打って悶絶。
しかし躊躇している暇はない。
「最初は"グー"！じゃんっけんっぽい！」
ｷﾀ━━━ヽ(∀ﾟ )人(ﾟ∀ﾟ)人( ﾟ∀)人(∀ﾟ )人(ﾟ∀ﾟ)人( ﾟ∀)ノ━━━!!!!
ishii社長。ごちそうさまですっ！
いい歳した大人によって繰り広げられる仁義なき戦いに、女性店員なんてもう笑っちゃってるし。
終戦後。 レジで会計を済ませている間、我々２人は「社長。ごちそうさまですっ！！」などと言いながら90度お辞儀。最高級の礼儀をもって接する。 頭下げてタダ飯食わせてくれるなら、頭なんてナンボでも下げまっせ。
こうして今回はishii社長のおごりということで抗争は終結した。
社長！ごちそうさまですっ！！
- 【参考リンク】
- 万能薬－ぐるなび
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